春の足音が、少しずつ近づいてくるこの頃。
店先の空気や、朝の光のやわらかさに、冬とは違う気配を感じるようになりました。
そんな季節になると、自然と手が伸びるのが桜餅の仕込みです。
桜餅とひと口に言っても、実は地域によって姿が異なります。
関東では小麦粉の生地で餡を包んだ「長命寺」、関西では道明寺粉を使った「道明寺桜餅」。
当店でお作りしているのは、道明寺粉の桜餅です。
もち米を粗く挽いた道明寺粉は、粒感がほどよく残り、噛むほどに米の甘みが広がるのが魅力。なめらかすぎない、この食感こそが春らしさだと感じています。
そして、桜餅に欠かせないのが桜葉の香り。
実は、あの香りは花の香りではなく、塩漬けにされた大島桜の葉によるものです。
葉を塩漬けにすることで生まれる「クマリン」という成分が、あの春を思わせる香りを作り出します。
桜の花が咲いていなくても、桜餅を食べると「春だなぁ」と感じるのは、この香りのおかげかもしれません。
桜餅の歴史は江戸時代にさかのぼります。
花見の名所・隅田川で考案されたとも言われ、春を楽しむためのお菓子として人々に親しまれてきました。
時代が変わっても、桜餅が持つ「季節を味わう」という役割は、今も変わりません。
まだ寒さの残る日もありますが、桜餅を包むたび、季節は確かに前へ進んでいると感じます。
今年も、春の気配をそっと手渡すような一つを目指して、丁寧に仕上げてまいります。


