秋の訪れを告げる植物のひとつに、ツルウメモドキがございます。庭先や店先でその枝に小さな実をつける姿を見ると、季節の移ろいをしみじみと感じます。晩秋になると外側の殻がぱちりとはじけ、中から鮮やかな橙色の実が顔をのぞかせます。その光景は、まるで小さな灯りがそっとともるようで、控えめだった緑の枝が、一瞬にして華やぎを見せる様子には、自然の演出の妙を感じずにはいられません。
古くから日本では、ツルウメモドキは正月飾りや生け花に欠かせない素材として用いられてきました。赤と黄色のコントラストは縁起が良いとされ、「実り」「繁栄」「長寿」を象徴するといわれます。名前に「ウメ」とありますが、実の形が梅に似ていることに由来し、梅の仲間ではありません。そして「ツル」の字の通り、蔓を伸ばして他の木に絡みつきながら力強く育つ性質も持ちます。その生命力は、古くから人々に「めでたさ」の象徴として愛されてきたのでしょう。
江戸時代の茶人や花人たちも、この植物の魅力に心を奪われました。冬の茶席に一枝添えるだけで、素朴な枝ぶりと鮮やかな実の対比が、侘びと華やぎを同時に感じさせ、日本の美意識を映し出します。寒さで景色が冬枯れに染まる季節、赤や黄の小さな実が視線を引きつける瞬間は、心にふんわりと温かさを運んでくれるのです。
また、この実は観賞用であり、口にすることはできません。わずかに毒性を含むため、手を出せないその性質も、人を惹きつける不思議な魅力となっています。「美しいけれど手を出せない」――そんなツルウメモドキの姿は、自然の奥ゆかしさを感じさせ、じっと見つめていたくなるのです。
店先や店内にツルウメモドキを一枝そっと飾れば、そこだけ秋の空気が濃くなったかのよう。華やかでありながらどこか懐かしい、心落ち着く日本の秋の風情を、お客様とともに楽しめるのは、女将として何よりの喜びでございます。散歩の途中にふと見つけた小さな実の色や形に目を止めると、日々の慌ただしさも少しやわらぎ、自然の営みの美しさを心で味わえるひとときとなります。
この小さな橙色の灯りに、季節の訪れをそっと教わりながら、皆さまに秋の喜びをお届けできれば幸いです。
