立秋を過ぎたとはいえ、まだ昼下がりの陽射しは名残惜しげに夏の熱を残しております。
個室をご予約くださったお客様へ、ひそやかにお出しする特別なお吸い物――その名も「江戸すまし」。
江戸時代の古い料理書には、赤味噌を溶いた汁の上澄みを“すまし汁”と呼んだ例が記されております。
その一文を手がかりに、当店なりの想いを重ね、澄み切った一椀に仕立てました。
金色に透き通る出汁の中に、ふわりと浮かぶ手作りの団子。
その中には、やわらかく香り立つ黒糖をそっと包み込みました。
お箸を入れれば、ふくよかな甘みがほろりと溶け出し、潮の香を帯びた出汁と一つに溶け合います。
ひと口目の驚きと、二口目の安らぎ――。
遠き江戸の町並みが、湯気の向こうにぼんやりと浮かぶようでございます。
ここでしか味わえぬ一椀をお運びできる幸せに、名残惜しく鳴く蝉の声に耳を傾けた夕暮れでした。
