花の一つひとつにも、国を越えた物語があります。
たとえばこの「リューカデンドロン(銀葉樹)」。南アフリカのケープ地方に自生し、17世紀にはオランダ東インド会社の船でヨーロッパへと渡ったといわれます。
そのころ、ヨーロッパでは“未知の植物”として大流行。花ではなく葉を愛でる、という感性が珍しがられ、王侯貴族の温室を飾ったそうです。
名前の「Leucadendron」はギリシャ語で“白い木”の意。陽の光に銀色に輝く葉を見た人々が、そう呼んだのだとか。
そしてもう一つ、「カンガルーポー(袋花)」。
オーストラリアの先住民・アボリジニの人々にとっては古くから“癒やしの花”。花の汁を傷口に塗ると治りが早いと信じられ、神聖な儀式にも使われていたと伝えられています。
今では西オーストラリア州の州花として愛され、結婚式やお祝いにもよく登場します。
異国の地で長い旅をしてきた二つの花が、今こうして私の店の小さな花器の中で寄り添っている。
人もまた、旅を重ねて出会い、調和しながら生きていく——。
そんなことを、この花たちがそっと教えてくれるようです。
