一服のあいだの絵巻物

本日はお道具の中から一碗。
やわらかな土肌に、のびやかに描かれた兎と蛙。
ひと筆書きのような墨の線が、生き生きと動いて見えるのです。兎はしなやかに跳び、蛙はどっこいしょと腕を振り上げて追いかける。その姿は、まるで今にも声が聞こえてきそうなほど。背景にさらりと描かれた山々と朱色の印が、余白の景色を引き締めています。

この意匠、どこかでご覧になったことはありませんか?
そう、『鳥獣戯画』。京都・高山寺に伝わる国宝絵巻で、擬人化した動物たちが相撲をとったり、お経を読んだり、時にどたばた走り回ったりするあの名場面。平安末から鎌倉初期にかけて描かれたといわれ、日本最古の漫画と呼ばれることもある名品です。当時の人々も、これを見てくすっと笑い、世の中の風刺や人間模様を感じ取っていたのでしょう。

茶席において、こうした戯画風の絵柄は昔から人気があります。
静けさを大切にする茶の湯ですが、時にこのような遊び心のあるお道具が場を和ませ、客人の緊張をほどきます。抹茶を点て、見込みの鮮やかな緑がこの墨絵を包むと、兎と蛙はさらに躍動的に見えるのです。飲み干した後には、お碗の底の景色もまた一興。道具には、こうした“語らせる力”があるのだと、改めて感じます。

ちなみに『鳥獣戯画』は4巻構成で、兎と蛙の場面が有名な甲巻のほか、猿や狐などさまざまな動物が登場します。茶人たちは昔から、こうした戯画に親しみ、茶杓や棗、掛け軸に至るまで、季節や場面に応じて取り合わせてきました。お道具が語りかける物語を、客人と共有する――それが茶の湯の醍醐味なのです。

この茶碗もまた、そんな物語を宿しています。

今日も一服、この兎と蛙とともに。
お茶の味わいだけでなく、茶碗が語る物語も、皆さまに届きますように。

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